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《九重墨花》同居〜別居②

お嫁さんに、突然こう聞かれた。

 

「老後の資金、いくらあります?」

 

「はぁ〜?
そんなこと聞く?」

 

思わず、面食らった。

さらに続けて、

 

「私たちも子育てと新居の購入でお金がかかるので、老後の面倒まではみれません」

 

私、あんぐり。

そして、

 

「通帳とか、金額が分かるものを見せてもらえます?」

と。

 

息子からは、あらかじめ聞いていた。

老後の資金について確認されるかもしれないことも、

そういう話をする必要があることも、

分かっていた。

だから、聞かれること自体に驚いたわけではない。

 

でも、まさか
こんなに突然、
こんなふうに聞かれるとは思っていなかった。

 

よく言えば、

【しっかりしたお嫁さん】

なのだろう。

 

自分たちの生活を守るために、
必要なことをきちんと確認している。

 

そう考えれば、納得できなくもない。

 

……なのだが。

 

 

その場で通帳を見せて、
金額を確認されると、
やっぱり複雑だった。

 

結局、全部見せて、納得してもらった。

 

そのとき私は、

「え、この金額で納得するんだ?」

と思っていた。

 

私からしたら、

「いやいや、足りないでしょ」

だったのだ。

 

でも、お嫁さんが納得したので、

「まぁ、いいか!」

となった。

 

ただ、胸の奥には、少し引っかかるものが残った。

そして、同居生活が始まった。

一緒に暮らせば、少しずつ家族らしくなっていくのだろう。

 

最初は、そんなふうに思っていた。

けれど、同居のルールは、お嫁さんがどんどん
決めていった。

 

一階のリビングやキッチンは、
まるでモデルルーム。

無駄なものはなく、
グレーと黒に近いグレーで統一されている。

タオルもグレー🩶
家電も黒かグレー🩶

 

私がキッチンの小物をカウンターの上に置いていたら、

「ここに入れてください」

と、黒いカゴを用意してくれた。

 

なるほど。

私のものは、
ここに置くのね。

 

洗面所にもカゴが用意された。

ありがたい。

 

私のために場所を作ってくれたのだから、
ありがたい事だと思う。

 

でも、その
「ここに入れてください」という言葉を聞くたびに、

少しずつ気を遣うように
なった。

 

ありがたいんだけど……

 

なんか、圧がすごい。

 

「ここ、気を遣いそうな家だなぁ……」

そんな気持ちが、少しずつ出てきた。

 

そして、ふと思った。

 

「え?
ここが私の家になるの?」

 

 

私に与えられた部屋は、
6畳。

 

そこには、天井から吊るすタイプの部屋干し用の物干しが設置されていた。

 

「え?
ベランダ、使えないの?」

聞いてみた。

 

すると、

 

「大きい物はベランダに干していいですよ」

とのこと。

 

あぁ、よかった。

そう思ったのも束の間。

 

 

2ヶ月後。

 

「私たちの部屋を通るので、ベランダに干すのは遠慮してもらえますか?」

と、お告げが来た。

 

最初は「使っていい」と言われた場所が、あとから「遠慮して」と変わる。

そのたびに、
私は自分の中で線を引き直さなければならなかった。

 

ここは使っていい。
ここはダメ。

 

これは置いていい。
これは片づけて。

 

……難しいなぁ〜。

 

同居って。

一緒に暮らすって、
家族になることだと思っていた。

 

でも実際は、

「ここまではいいけど、ここから先はダメ」

という境界線が、あちこちにある。

 

しかも、その線は最初からはっきり見えているわけではない。

 

暮らしながら、
言われながら、
少しずつ分かっていく。

 

その境界線を、私はまだ上手に見つけられていなかった。

  1. つづく

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